熊本県指定「臥龍梅」の樹勢回復スタート!

令和元年7月15日

 1640年頃に細川忠興(三斎)公が「八代から百花の魁となる人材出でよ」と念じて植えた梅の木です。樹齢380年で、樹形が龍のような形であることから、臥龍梅(がりょうばい)と云われています。2月中旬に薄紅色の八重の花が咲き6月に結実します。近年は樹勢が衰退して分枝も枯れ始めており、暗くて存在感も薄れていました。

着手前

着手前

着手前

着手前

切り詰め剪定後

切り詰め剪定後

生垣剪定後の状況

生垣剪定後の状況



 臥龍梅は、昭和57年に熊本県指定天然記念物に平成29年に国史跡に指定されるなど、文化財としての期待感が高まっています。しかし、問題も浮上しました。臥龍梅の樹勢回復には土壌改良(暗渠排水工など)が必須ですが、埋蔵文化財の規制もあり土壌掘削については深さ7㎝までしか許可されませんでした。その範囲内での厳しい治療になります。
 風通しや見透しを良くするため高さ1.2mの生垣(ウバメガシ・ヒラドツツジ・サツキなど)は、切り詰め剪定しました(写真 前後)。根元周辺には、排水不良の場所に生育するネンジュモ(写真-1)が発生し極めて状態が悪化しています。さらに、コスカシバ(写真-2)、タマタカカイガラムシ(写真-3)も寄生しています。加えて枯れ枝も発生しており、衰弱枝には蘚苔類(ウメノキゴケ・写真-4)も付着しています。ウレタン・鉄筋棒(写真-5・6)の除去と腐朽部処理を加工し、樹体を強固にして鑑賞価値を高めます。
 2011年に土壌分析、長谷川式土壌貫入試験を実施していますので、それらの資料を参考にして作業(エアースコップ)を使用し、根系を傷めない方法で樹勢回復を行います。
タマタカカイガラムシ(写真-3)

タマタカカイガラムシ(写真-3)

コスカシバ写真-2) 樹糞

コスカシバ写真-2) 樹糞

ネンジュモ(写真-1)

ネンジュモ(写真-1)

蘚苔類(ウメノキゴケ・写真-4)

蘚苔類(ウメノキゴケ・写真-4)

劣化したウレタンと鉄筋棒(写真-5)

劣化したウレタンと鉄筋棒(写真-5)

劣化したウレタン(写真-6

劣化したウレタン(写真-6


 1999年にM樹木医さんが施術され、当時は樹木医の創世期でウレタンの施工は普通に実施されていましたが、劣化が早いので最近では雨水が溜まる空洞部以外等での使用は控えています。杉丸太支柱をしたいのですが、7㎝の規制に苦心しています。
 11月15日が竣工ですが、樹勢回復はこれからがスタートです。養生期間は5年以上の時をかけ、植えた三斎公の思いを現在に伝えるため原形に復元できるように努力します。

「クスベニヒラタカスミカメ」とダルマさん樹木医

樹木診断研究会

 日本には、農薬取締法という厳しい規制があり法令順守しなければなりませんが、殺虫剤で「クスベニヒラタカスミカメ」に使用できる農薬はほとんど登録されていない事も問題です。やむを得ず殺虫剤(エトフェンブロックス2000倍液)などを動力噴霧で散布すれば飛散(ドリフト)により、天敵や益虫などへの悪影響が出る可能性を指摘され、農薬散布を躊躇している自治体・会社・樹木医らもいます。そのために関西では大繁殖して、1本のクスに10000匹の「クスベニヒラタカスミカメ」が加害(マスアタック)して飛び回っている木もあるそうです。クスノキを守るために「クスベニヒラタカスミカメ」の防除対策をしないのが今回の対策の一つで、アブラムシ類、アザミウマ類の防除を目的とした散布はいかがでしょうか? アセフェートなどの散粒時期は梅雨前と秋雨前線前の孵化した幼虫に2回散粒することも重要です。クスノキ天然記念物の文化財等を守るために、「ダルマさん樹木医(手も足も出ません)」にはなりたくありません。 やる気のない人はできない理由を言い、やる気のある人はどうしたらできるのかを考えるのです。

葉の表裏の吸収痕や種子、青軸に黒班ができ、そこから炭疸菌を検出したとの報告もあります。激しい落葉(7月と11月ころ)と黒班化は炭疸菌の特徴で、目視できる鑑定方法です。この炭疸菌の殺菌剤散布はスルーしても大きな問題はないと考えていますが・・・。
現在、熊本市内で熊本市動植物園・熊本河川国道事務所・熊本大学などの協力を得て、4ヶ所で試験防除を実施しています。12月に報告書を提出してそれぞれの機関と共有したいと考えています。

国指定 田原坂公園の大楠(熊本市北区)

国指定 田原坂公園の大楠(熊本市北区)

国指定 田原坂公園の大楠(熊本市北区)

 

玉名市指定 伊倉南神社の大楠 (玉名市)

玉名市指定 伊倉南神社の大楠 (玉名市)

玉名市指定 伊倉南神社の大楠 (玉名市)

 

県天 妙蓮寺の大楠(菊池市)

県天 妙蓮寺の大楠(菊池市)

県天 妙蓮寺の大楠(菊池市)

 

県天 寂心さんの樟(熊本市北区)

県天 寂心さんの樟(熊本市北区)

県天 寂心さんの樟(熊本市北区)

 

八代市保存樹木八王社の大楠(八代市)

八代市保存樹木八王社の大楠(八代市)

八代市保存樹木八王社の大楠(八代市)

 

熊本市保存樹木 花畑公園の大楠(熊本市中央区)

熊本市保存樹木 花畑公園の大楠(熊本市中央区)

熊本市保存樹木 花畑公園の大楠(熊本市中央区)

 

国指定天然記念物 藤崎台のクスノキ群(熊本市中央区)

国指定天然記念物 藤崎台のクスノキ群(熊本市中央区)

吸汁痕から炭疸菌を検出

吸汁痕から炭疸菌を検出

 

クスベニヒラタカスミカメの移動と繁殖力の恐怖!!

2019年7月に発生したクスノキの異常な落葉木から採集された昆虫(写真)は、伊丹市昆虫館の長島氏より、クスベニヒラタカスミカメであると確認されました。熊本市に於けるクスノキの被害(罹病)木を赤い点で地図に落としました(図-1)。この発生分布図から、高速道路のインターチェンジ(熊本・益城)を基点として、東バイパスや第2空港線を主軸としたクスノキ街路樹を加害し、県庁周辺、光の森、健軍地区、上熊本駅周辺、さらに大江地区へと市内中心部へと侵入していることが読み取れます。さらに移動手段として、自力飛来だけではなく運搬車両等に便乗している可能性があり、幹線道路や人の集まる場所に被害が発生している傾向にあります。

2019年7月の発生分布図-1

2019年7月の発生分布図-1

クスノキは常緑樹ですが、4月に新芽と交代する落葉が自然現象にあります。さらに7月と10月に落葉するクスノキ炭疸病(アザミウマ・アブラムシ・ダニなどの媒介)の病的な落葉も発生しています。このような状態に加え、クスベニヒロタカスミカメの加害が重なり多量の落葉が起こり、クスノキの樹勢衰弱化が診られます。被害地域は国道・県道・市町村道の街路樹や、公園・河川・民有地などに及び、どこから防除したら良いのか解からないのが現状と思われます。このまま放置すれば、生態系にも悪影響がおよぶ可能性もあり、県木クスノキを守るために早急な防除対策が求められます。

落葉後からの回復状況・県庁周辺(7/28)

落葉後からの回復状況・県庁周辺(7/28)

落葉後から新芽・第2空港線(7/29)

落葉後から新芽・第2空港線(7/29)

回復状況(7/30)

回復状況(7/30)

被害葉(7/31) 炭疸病との合併症状?

被害葉(7/31) 炭疸病との合併症状?

熊本で確認された「クスベニヒラタカスミカメ」について

 2019年7月に熊本市東区の神社や街路樹などで、クスベニヒラタカスミカメによる被害と思われるクスノキが県内で初めて確認されました(写真-1)。この種は2015年から、関西地方で発生し全国に拡散しはじめている外来種で、まだ生態や防除方法が良くわからないカメムシの仲間です。
 防除対策は、熊本市で発生した「クスノキ炭疸病」について(TREE-DOCTOR NO.25号 2016年)で発表した対策でも効果が期待できるのではないかと考えています。クスベニヒラタカスミカメも吸汁性昆虫で、炭疸病の発生を媒介しており、クスクダアザミウマやクスオナガアブラムシと同様の防除方法が可能であると考えられます。この罹病木(写真-1)は落葉後に新芽が伸びはじめており回復しますが、この新芽は特に寒さに弱いので早めの防寒対策が必要です。
 緊急の対策として、「クスベニヒラタカスミカメ」は葉柄などに産卵していると云われ、「炭疸菌」も葉に発病しているなど、被害拡大を防ぐために落ち葉や枯れ枝は集めて焼却処分します。アセフェ-ト粒剤を根元に散粒し、殺菌剤、殺虫剤散布はドリフト(飛散)防止に心がけます。他の吸汁性昆虫も含めて防除するマニュアルを検討すべき時期と思います。

写真-1 新梢からの落葉

写真-1 新梢からの落葉

写真-2落ち葉状況・昨年より多い

写真-2落ち葉状況・昨年より多い




写真-3 吸汁痕に発生した黒斑

写真-3 吸汁痕に発生した黒斑

写真-4 葉裏の黒班

写真-4 葉裏の黒班

熊本でのムクドリ撃退後のクスノキは元気?



3月4日~3月5日にかけて、ムクドリの「ねぐら」を切り詰め剪定しましたが、その後のクスノキはどうしてるのか?ムクドリは残留していませんでしたが、切り詰め剪定されたクスノキは新緑が戻って樹勢が回復しておりますので一安心です。


6月15日の現在、新芽が元気良く伸びていますが、この青軸にアブラムシ・クスクダアザミウマなどの吸汁性昆虫が加害した痕にクスノキ炭疸病菌が侵入して枯死する原因になります。防除対策は6月と7月にオルトラン粒剤を散布して殺虫することを提案しました。年内には昨年並みの緑量は確保できると思われます。

写真1

写真1

写真2

写真2

ムクドリの置き土産(センダン種子)が根元緑地にたくさん発芽しています(写真-2)。糞のお陰で肥料は必要ありませんね。清潔・安心・きれいな交差点になりました(写真-1)。

樹木医(5期会)の情報交換会

平成4月25日~26日

 打撃音樹内腐朽簡易診断装置(ぽん太)の説明会に参加し、会社訪問しました。早い、安い、簡単に主幹の腐朽部が図示化できることが便利です。これを活用して、熊本の街路樹・公園樹などの安全管理に少しでも貢献できればと考えています。より多くの樹木医が使用して倒木の可能性のある樹木診断のスキル向上につながれば良いですね。

出雲大社

出雲大社

樹齢400年以上のクロマツ

樹齢400年以上のクロマツ


 平成から令和へ進む心構えと、樹木診断研究会のレベルアップを祈念してお参りしました。出雲地方の屋敷林「築地松(ついじまつ)」は生活に密着した風景で文化財として貴重な樹木林です。残念ながら保存・保護が困難で少なくなっています。

2019全国さくらシンポジウムin二本松  日本花の会

福島県二本松市にて 4月11日

福島県二本松市にて 4月11日

パネルデイスカッション 参加者1000人で盛大な大会でした。

パネルデイスカッション
参加者1000人で盛大な大会でした。

三春の滝桜  若林氏撮影

三春の滝桜  若林氏撮影

エドヒガン系 幹周11.3m

エドヒガン系 幹周11.3m

ようやく会えました!!  鈴木樹木医(6期)が、養生管理しています。観光客の多さで周囲は混雑し、車は渋滞。1本桜のオーラが輝き、日本一のシダレ桜です。

国指定 杉沢の大杉 樹齢1000年

国指定 杉沢の大杉 樹齢1000年

樹高50m 幹周12.8m

樹高50m 幹周12.8m

お見事!!と叫びたくなるような1本杉で、三春の滝桜の近くにあり半日で国天が2本も見られるとは幸せでした。車で案内して頂いた、若林樹木医(10期)・蓮實樹木医(14期)には感謝です。

合戦場の桜 若林氏撮影

合戦場の桜 若林氏撮影

幹周約3.0mの2本が参道に対で植栽

幹周約3.0mの2本が参道に対で植栽

所有者の三浦氏が熱心に説明していただきました。年間200日は一人で管理。

中島地蔵の桜 若林氏撮影

中島地蔵の桜 若林氏撮影

樹齢150年 樹高10m 枝幅30m

樹高10m 枝幅30m

中島の地蔵桜を守る会で管理。ライトアッブで水田に映し出された夜景の荘厳さや、背景に安達太良山が望めるなど1本桜の自然な演出がすばらしい!!さらに、樹皮に縦列がはっきりと見えエドヒガン特有の性質がでており、花も多く樹勢も旺盛でした。
地元の人々の心からの御もてなしに感激で、お茶や梅の漬物なども美味しく頂き、感謝・感謝です。良い想いで、ありがとうございました。

熊本の桜開花宣言が遅れた意外な理由!!

 九州での開花宣言は、平成31年3月20日に長崎で開花宣言され、3月21日に福岡が続いて、熊本は3月26日で平年より3日、昨年より9日遅れの開花になりました。熊本地方気象台は遅れた理由として、休眠打破が暖冬で進まず、3月中旬以降の気温が低かったことが影響していると分析しました。これは「開花を観て、木を診ていない観測」ではないかと私は考えます。熊本地方気象台の標本木は、平成23年に合同庁舎への移転を機に新しく植えられたソメイヨシノですが、熊本駅周辺事業の計画地盤高の変更等があり、結果的に植栽地盤高との差が生じて深植え状態になり、根が呼吸できにくい環境になっていると指摘されています。桜類は浅根性なので深植え状態に耐えられる樹種ではなく、植栽後の呼吸困難による後遺症で樹勢が衰弱して、開花が遅れたことになります。周囲のソメイヨシノは開花しているのに標本木だけが開花できなかったのは、標本木自身に問題があると考えられます。
桜標本木(写真-1・2)は外見からも下枝が低い位置にあり、深植えされていると判断できます。さらに根元に電線類が埋設されて根系切断も考えられ、樹形も小枝が歪曲し始めており、このままでは来年以降も開花が遅くなると推察されます。桜以外に標本木の植樹帯はヤマモミジ(写真-3)・イチョウ(写真-4)等もあり、それらも主幹・枝の枯れ下がり症状が診られ衰退化しています。

 熊本の桜開花宣言が遅れたのは気象関係ではなく、深植え等による根系障害で、人災の可能性もあるのではと私は考えています。

標本木2本(3月20日・写真-1)

標本木2本(3月20日・写真-1)

標本木(写真-2)手前にマンホール

標本木(写真-2)手前にマンホール

3月26日(開花宣言)

3月26日(開花宣言)

4月4日(満開宣言)

4月4日(満開宣言)

ヤマモミジ(写真-3)枝枯れ

ヤマモミジ(写真-3)枝枯れ

イチョウ(写真-4)主幹が枯死

イチョウ(写真-4)主幹が枯死


ムクドリ退散の一例・熊本市中央区

熊本市で一番大きな水道町交差点に植栽されているクスノキ(幹周約1.5m)が角々に4本あります。これらのクスノキがムクドリの「ねぐら」になり約5000羽が集団で居ついています。落下糞・悪臭・羽毛・鳴き声などによる被害が深刻な状態になっており、市民から苦情が出ています。市役所から、クスノキの剪定と景観についての相談があり、私は切り詰め剪定と養生再生についてのアドバイスをしました。

平成31年2月20日 クスノキ

平成31年2月20日 クスノキ

ムクドリ糞(センダンの実)

ムクドリ糞(センダンの実)

クスノキNO.2 切り詰め剪定後

クスノキNO.2 切り詰め剪定後

3月9日 電線などに約5000羽

3月9日 電線などに約5000羽

3月10日雨天 約1500羽

3月10日雨天 約1500羽

3月12日約1200羽

3月12日約1200羽

3月14日 約700羽

3月14日 約700羽

3月16日 47羽

3月16日 47羽

クスノキ切り詰め剪定後、この交差点から10日くらいでムクドリが全て退散しました。こ の大きな原因は、「ねぐら」を切り詰め剪定されて3月10日に雨が降り、雨宿りができない、風が強く羽が乱れる等の理由があるのかもしれません。他に餌場の変更、安全な場所を近くで見つけ、繁殖期に入ったなどの要因も考えられます。
3月17日は、ムクドリの姿は確認できず、0羽でした!!
いずれにしても、この場所からムクドリが退散したことは事実です。幸運だったかもしれませんが?

つづく

「寂心さんの樟」の後継樹を育てるよ!

 熊本市立北部中学校の緑化委員会で、寂心さんの子孫を残そうとする取り組みが行われました。文部科学省の教育プログラムの一環で、地元中学生6人が代表で採集に行きました。日本一美しい大楠の後継樹を守り育てる学習です。

 2月20日の熊本日日新聞の朝刊に掲載された、北部中学校の緑化委員会の生徒達です。寂心さんの下で落下した種子苗14本を採集して、コンテナに移植して高さ1.0mくらいに大きくなるまで教室で育てて校庭に移植する計画です。
熊本市立大江小学校の「大エノキ」後継樹を育て、これからの養生管理などの勉強会を、2月25日にしました。6年生70人が熱心に学習して、多くの質問が出ました。

 終了後に小学6年生3人から質問攻めです。大エノキのクローン苗(接木)は元気でのびのびと成長しています。実生苗も一緒に育っており後継樹は安心です。