樹木医ブログ
池尻の唐笠松 枝折れ曲がり
2024.7.2
樹齢300年以上、樹高13m、幹周3.7m、枝幅30mが計測されています。樹種はアカマツで、周辺の山々に多く自生していますが、樹形は上伸性ではなく横披性の傾向があります。
2012年2月にピカス診断をしていました。診断結果は地上1.0mでの材質異常の程度は30%程度、地上4.0mの異常は1%程度でした。植栽基盤の状態は良くなく根系が浅い場所までしか生長できず高温・乾燥・強光・風力の影響を受けやすい環境です。2年前に大枝のひび割れが見つかり今年度に養生を計画していました。
養生治療計画について
アカマツは材質に粘りがありますので、冬期であれば幹の癒着が期待できますが、曲がっている大枝を切断せずに現在は様子を診ることが樹形保全には必要ではないかと考えています。新芽・新梢などはまだ萎縮していませんので、早急に幹巻・防腐剤塗布・蒸散抑制剤散布などの保護養生を施すべきと思いますが・・・。曲がっている大枝は、三脚支柱などの組み合わせで被害の拡大を防ぐことが可能で、曲がった大枝の切断は回復の見込みが亡くなった時の最後の手段とします。夏場の外科的な治療は危険ですから、このままの状態で秋口まで見守る(観察)つもりです。この作業以外に、年間管理業務もありますので例年以上に心配しています。
樹木医 今村順次
国指定天然記念物「下城の大イチョウ」の大枝折れの修復
農林水産大臣認定 第316号樹木医 今村順次
令和6年5月7日の夜7時30分ごろ、大雨で強い風が吹き荒れており南側に伸びていた大枝が折れて隣接する建物の屋根に落下しました。屋根は大破して周辺の小枝や幹にも損傷が発生していた。幸いなことに、人的被害はなく樹勢については観察して治療すれば10年くらいで回復すると考えられます。
概略
枝折れした大枝は、,根元から高さ約4.0mの所にあります。直径60㎝~70㎝で長さ10m~15m以上あり、折れた大枝の総重量は10t前後と推定しています。落下している枝・枝葉などの合計で7tを見積りしています。水揚げ時期ですから、特に重量は増加して、樹皮は剥けやすくなっていますので用心すべきです。
枝が密に広がっていますので上からゴンドラ(作業箱)を下すのは困難ですが、他の方法で安全管理を優先にして作業する方法も一つです。他に4tユニックで折れた枝に近づきチェンソーで切断します。25tクレーンで吊り上げて玉切りにして、少しずつ空地に仮置場に積み上げて処分場まで移動(搬出)します。
切断部は殺菌剤トップジンM・人工樹皮ラックバルサンや墨汁等を塗布しますが、形成層周辺や心材辺りは鋭利な刃物で処理して再生しやすい状態にします。作業ヤード内に入らないようにカラーコーンで囲み、安全管理を優先します。
対象樹木は、国道より4m~10mくらいの高台にあり乾燥しやすく湿気が少ない場所に生育していますので、地元の老人会さんたちに葉の伸長時には乾燥化が進みますので潅水は頻繁にされることをお願いします。沸騰化の時代ですから、根系だけではなく低所の根元・枝・葉まで散水されることをお願いします。今回の枝折れ被害は小さくはありませんので、養生管理は継続してお願いします。
以上
「一心行の大桜」の再生記録
「一心行の大桜」の衰退原因と治療
Ⅰ.樹種・ツクシヤマザクラ
一心行の大桜は長い間、ヤマザクラとされていた。しかし、周辺のヤマザクラと開花時期が異なり、花が葉より先に出て開花し花数が多い、葉裏は薄い緑色、幹肌は縦列(エドヒガン系)で、葉形は楕円形、葉縁は重鋸歯が先細く延び、花に芳香(クマリン)などの形質はオオシマザクラにも近いなどから、大桜はヤマザクラではないと考えられる。しかも樹齢400年と推定されその間、テングス病・コブ病などにも罹らず強い性質があることも証明されている。2013年に勝木先生達は、核DNAのSSR分析の結果、九州南部に自生しているヤマザクラの変種でツクシヤマザクラのグループに区分できるとしている。母樹は宇城市矢裂から移植した可能性が高く自生地の範囲でもある。
Ⅱ.衰退の経緯
- ①火山灰(写真)
- 1928年~1929年に阿蘇山の大噴火による降灰ヒコバエ発生・5本の株立になる。
- ②台風
- 2004年8月と9月の強烈な台風により幹折れ多くの枝が折れて、花が咲いた。
- ③埋立と盛土
- 2005年にウッドデッキ設置による段差解消のため約1.8mを埋立(盛土)した。
- ④熊本地震
- 2016年4月に震度7の地震が発生した。根系の切断・ヒコバエの傾きがあり衰弱を加速した。
- ⑤腐朽部の通水障害
- 枝枯れが発生しやすくなり、樹勢衰退化が目立つ。コフキタケなどの腐朽菌の発生。コスカシバの加害。
- ⑥高温・乾燥・強光
- 地球温暖化(沸騰化)の影響が大きく、樹体温度の上昇による樹勢の衰退化がある。枝枯れ、早期落葉、蘚苔類の付着がある。
Ⅲ.土壌調査
盛土した一部を掘り戻し根系調査した結果、大桜の根系は下方(底)で腐れておりサカキ・ヒサカキの根系が表土盛土に生育していた。この原因は、2005年に南側の段差解消のために埋立した結果、植栽基盤が悪化したと考えられる。これは空気・水分の流通が困難な土壌状態になり、密閉化して腐植したと考える。土壌分析では異常はなかったので、盛土の物理的な関与(重量・密閉・腐敗など)があったと考えています。
Ⅳ.治療期間
大桜は5本のヒコバエが生長した株立です。それぞれの幹に立場・生育環境が異なりますので、植栽基盤に合わせた再生管理が求められます。土壌改良の重要な部分は2003年の下段を復元させて根系環境(空気・水分・温度など)を戻すことから周辺環境整備を少しずつ始めます。これは全てが従来のように段差修復するのではなく、大桜の樹勢を確かめながら、毎年少しずつの復元養生をして30年後に回復すれば成功だと考えています。ヒコバエ主幹の1本1本にそれぞれ異なる養生をしなければなりません。
Ⅴ.復元の順序と養生管理
大桜の根元には、樹高3.0m~4.0mのサカキ・ヒサカキが8本植栽されています。これらの樹木は移植か伐採・抜根して大桜との根系競合を止めます。段差の解消は徐々にすべきですが、特に注意すべきことは埋立土を搬出した後に元土や大桜根系を乾燥させないことです。
大桜が埋立(盛土)されて失った物は大きく、枝枯れ・樹勢衰退により美観が損われます。盛土されて通気不良になり空気(酸素など)、水分、微生物などの生態系、さらに冬場の暖房(石垣)なども失っています。
土壌改良は通気性を高め、乾燥させないように潅水し、緩効性肥料(骨紛入り)を施肥し、根量を増加させます。枯れ枝は随時剪定します。腐朽菌類は切除して防腐剤等をその都度塗布します。夏場の暑い日は主幹に散水して樹体温度を下げることが樹勢回復に繋がる作業です。
Ⅵ.謝辞
この論文は、樹木医学研究 第27巻3号 (2023年7月) 別刷で発表しました。この投稿は森林総研の勝木俊雄博士のご指導や南阿蘇村役場、峯家などのご協力で書き上げることが出来ましたことを感謝いたします。
以上
一心行の大桜は治療中です!
一心行の大桜が衰弱し枝枯れが多くなっています。その原因を調査して樹勢回復のための治療を行っています。衰弱した原因の見当は付いていますので数年お待ちください。2003年の満開時(写真-1)の状態に近づくように養生しています。明らかに現在と異なるのは南側の段差が無くなっていること(写真-2)ですが、これが樹勢衰退と関係があります。答えは数年後に出ますので、暫くお待ちください!
幹周は7.35mで登録されていますが、大桜は5本の株立ですから1本立の計測法での基準では当てはまらないのではと考えられます。巨樹の会の高橋さんに相談したところ今のままで特に問題はないのではとの意見でした。ヒコバエが発達して株立になっており、一番大きな幹周はC=3.55mです。
少し、歩いたみたいですね!!(写真-3)。
樹種としては、ヤマザクラ・エドヒガン・オオシマザクラではなく、ツクシヤマザクラの可能性が高いとの指摘(森林総研 勝木俊雄氏)を受けていますが、私も同感です。
所有者は峯茂氏から峯崇氏へと今年になって変更されています。今年度の主な業務は根元周辺に植栽されたサカキ・ヒサカキを移植(2本)と伐採(6本)して大桜の根系との競合を避け、根力の増強に努めます。
コフキタケ・カワラタケが発生していますので、それらの防除をします。腐朽部の影響や根力の弱体化もあり夏場の水分供給が不足になりやすいので潅水や葉面散布は充分に行う予定です。
全国さくらシンポジウム イン熊谷 2023年4月6日~7日
4月6日に、日本一暑い熊谷市で桜シンポジウムが熱く開催されました。地元で改良されたセンダイヨシノは満開状態で明るく迎えていただき参加者が美しさに感激し想い出に残る一日になりました。感謝です。
4月7日 現地見学会
4月8日
浜離宮恩賜庭園は1654年に徳川綱重が着手した。現在は都立公園・特別名勝・特別史跡になっています。日本人より外国人観光客が多かったことが印象的です。
第20回サクラ保全会議 日本花の会
令和4年11月29日 日比谷公会堂
令和4年11月30日 コマツビル
2022年度 桜の名所づくりアドバイザー会議(第18回)
明治神宮へ参拝(11/29)
令和4年12月1日 読売ランド(調布市)
久しぶりの研修旅行です。能子が「日本花の会」の桜の名所づくりアドバイザーになりましたので11月29日の早朝から東京行きです。12時から「サクラ保全会議」の受付で夕方6時までの研修会で有意義な時間でした。翌日はコマツビルでアドバイザー会議が開かれ全国の桜情報を収集して午後2時から明治神宮へ参拝です。そして調布市の読売ランド近くのビジネスホテルで宿泊です。朝から読売ランドへ行き、HANA BIYORIの見学です。ここは能子がボランティアで作業した場所で、NHKの趣味の園芸の取材が行われていました。ナチュラルガーデンが日蔭になり弱っているので桜の枝の剪定指導を頼まれました。英国風の草花がこれからの園芸(造園)の主流になると思います。時代は急激に進化しているみたいですね。
「桜100選」の市房ダム湖周辺の桜
熊本県水上村は、市房ダム湖が完成した昭和36年から昭和40年以降にソメイヨシノ等を湖畔に群植して、桜の名所として開花時期には多くの観光客が押し寄せるようになりました。しかしながら植栽後60年が経ち、現在ではソメイヨシノの自然衰退(生育限界)や「テングス病」が多量に罹病しており、さらに山影での日照不足、密植になり下枝が枯れ上がるなど、樹勢が衰弱しはじめており厳しい環境が続いています。これらの原因をひとつずつ時間をかけて改善すれば健全な桜の名所になる可能性が高い。
テングス病は子のう菌(タフリナ菌)が枝などに感染して、異常な多分枝を発生させる病気で、花芽は殆んどつきません。さらに1本の桜に数十ヵ所発生することもあり(写真-1)、樹勢がどんどん衰弱して枯死枝が多くなり見苦しい樹形になりますので、早めの剪定切除が必要です。村もこの現実を真剣に受け止め、桜の名所復活に取り組んでおられます。
市房ダム湖周辺の桜の名所は、「金をかけず時間をかける管理」が相応しいのではと思います。目標として20年、30年後に桜が樹勢回復できるような養生を目指すことが良いのでは? 急がば回れです。そのような説明を地元にしっかり伝えて協力していただくことも、桜の名所つくりの第一段階です。
① 養生についての情報管理を、村・地元・ボランテイア等の関係者で共有します。
② 「テングス病」の切除部分が浅く、再発の可能性が高いので切り詰め剪定をします。剪定や幹などに殺菌剤を場所によっては散布します。
③ 枯れ木、枯れ枝は安全管理のために早めに伐採・剪定します。
④ ソメイヨシノは植えないで、神代曙・小松乙女・陽春・千原桜などのテングス病に罹りにくい品種を植栽します。自生しているヤマザクラ・エドヒガンも活用します。
⑤ 肥料は油粕(骨紛入り)だけとします。
上記の要項を守り、毎年継続して養生することで、桜の名所として復活できると考えています。
「寂心さんの樟」後継樹を育てる! 熊本市立北部中学校
樹木医 今村能子
経過
2019年1月に生徒6人で「寂心さんの樟」の実生苗を採集して北部中学の校庭に移植しました。これは文部科学省の教育プログラムの一環で、地元の有名な楠を保存し後継樹として育成する計画です。地域の宝を北部中学のシンボルツリーにしようとする緑化運動です。あれから3年、高さ1.5m~3.0mに成長した楠苗が3本残っています。この子達(苗)をいつごろ、何本、移植方法、移植場所についての検討が必要です。2022年6月20日に水田校長から相談を受けて、社長(能子)と2人で学校に行き、これからの作業工程について話し合いとアドバイスをさせてもらいました。
計画案は下記の通りです。
楠の苗は、直根で細根が少ないので移植は難しい年齢でもあります。そのために根切りをして細根を増加させる必要があります。6月に根切りをすれば、翌年2,3月には新根が発生して移植しても枯れることは少ないと思われます。剪定・根切り・蒸散抑制剤散布・活力剤・発根促進剤・養生管理へと続きますが、夏場の気温・乾燥・強光には特に注意を払い新芽の状態を観察しながら管理します。熊本地方6月28日に梅雨明けしましたので、夏場の高温・強光・乾燥の障害が心配ですから、根切りは9月中~10月初に変更です。夏日は潅水をたっぷりおねがいしています。