熊本県指定天然記念物「栗崎の天神樟」の治療(枯れ木剪定とキイロスズメバチ駆除)
熊本県宇土市栗崎の菅原神社境内にご神木として祀られています。樹齢約400年、樹高26m、幹周12.5m、枝幅32mの巨樹です。シイ・カシ・孟宗竹などに囲まれて生育しており、大きな下枝・懐枝などが枯れ下がり落下の危険があり立ち入り禁止の状態でした。さらに、枯れ木空洞内にキイロスズメバチが営巣しており危険な作業になりましたが、無事に完了することができました。枯れ木は約5tあり、チップにして堆肥化します。
熊本県宇土市栗崎の菅原神社境内にご神木として祀られています。樹齢約400年、樹高26m、幹周12.5m、枝幅32mの巨樹です。シイ・カシ・孟宗竹などに囲まれて生育しており、大きな下枝・懐枝などが枯れ下がり落下の危険があり立ち入り禁止の状態でした。さらに、枯れ木空洞内にキイロスズメバチが営巣しており危険な作業になりましたが、無事に完了することができました。枯れ木は約5tあり、チップにして堆肥化します。
熊本日日新聞の8月8日の朝刊で、「わたしを語る」京都大学名誉教授 山室信一氏がシンボルツリーの白川小の大エノキが生き証人として紹介しています。このエノキは大きな空洞があり倒木の可能性があり危険木として伐採する計画でしたが、校長先生・卒業生の要望があり延命措置をとるように依頼があり、今年の1月に倒木し難いように治療しました。さらに8月10日の朝刊にも子供たちと触れ合っている写真が掲載され、大エノキは白川小のシンボルツリーとして大切にされていると感じられます。その時の記事を添付します。
現在は腐朽部からコフキタケ(子実体)が発生しているなど治療は継続です。土壌改良して根量を増加して倒木に耐える根力をつくることから養生します。今年の夏は異常な豪雨で記録的なもので、養生管理の仕方は毎日変化しますので、大エノキに寄り添いながらの介護になります。
2路線で502本を伐採する計画で賛成・反対の意見が新聞紙上でも激論されています。5月22日の熊日新聞朝刊で伐採計画が報道されると、6月4日の朝刊で矢加部氏(元熊日記者)が「森の都」原点に返り再考を!の記事が掲載され、伐採の再考を熊本市民から多くの投書が熊日新聞社や市役所に届きました。6月25日の朝刊で、大規模な伐採計画の詳細が報じられた。記事中で、「街路樹伐採は脱炭素社会を目指す時代の流れにも逆行する」との私の考えも掲載されました。6月26日の熊日で街路樹伐採計画は大西市長の英断で「いったん中断された」との報道がありましたが、中断されても街路樹管理・景観・安全性などの問題はまだ残っています。沿線住民や市民の理解と協力が、未来の熊本市が「森の都」か「火の国砂漠」になるかの分岐点に来ています。
樹木の大気浄化効能は、葉面で二酸化炭素を吸収し酸素を出す光合成を行い、葉中の水分を放出し、葉温調節や根からの養分・水分の吸い上げを行う。同時にSO₂、NO₂等のガス状の大気汚染物質も吸収します。このように樹木(葉)は毎日環境汚染を減らすために頑張っており、蒸散作用でビル街の温度を下げる役目も兼ねています。自然のクーラーです!!
単木の葉面積当たりの年間総CO₂吸収量は1m²当たり3.5kgCO₂/m²で、イチョウ(胸高直径50㎝)では木全体の葉面積が推定1000m²なので、これを掛ければ3500kgと推測されます(参考・大気浄化植樹マニュアル 平成15年改訂)。つまり、このイチョウ1本を伐採することで年間約3500kgのCO₂等が吸収されず、脱炭素社会を目指す時代の流れに逆行することを理解していただきたい。樹木は炭素を固定しており、それを伐採して焼却すれば炭素が放出されて温暖化を助長するからです。
さらに伐採計画の樹木たちは、ヒートアイランド現象が現れやすい高温帯に植栽され、蒸散作用や緑被効果で気象緩和も期待される。市街地の街路樹は、防音・防火効果もあり、緑に対する安心感・季節感などの心理的効果も演出しています。危険樹木以外で、人間の都合で健康な街路樹を伐採してはいけない。グリーンフアーストの精神で、「森の都」熊本を再生したいのが私の原点(動機)です。
熊本市中央区大江地区を流れる大井出川の石垣から生育しているカタルパ(アメリカキササゲ)という珍しい木があります。現在、満開の花を咲かせて香りが漂っています。このカタルパは樹高10m、幹周2.3mで樹齢は約120年と推測。この地は熊本女学校(1887年創立)の跡地と伝えられ、明治30年(1897年)に竹崎順子女史が校長に就任たときに、義兄の徳富一敬(徳富蘇峰・蘆花の父)が自宅で育てたカタルパ苗(新島譲から頂いた種子の苗)を教育の記念樹として植樹したのではないかと私は考えています。この木と徳富記念館のカタルパはDNA鑑定の結果、同じ祖先であることが判りました。さらに戦争火災や昭和28年の大水害、河川工事、台風などの多くの災害からも耐えて生き延びた強運の樹木で、ど根性のカタルパさんです。コロナ禍で苦しみ耐えている人も多いと思いますが、このカタルパさんに負けないように頑張りましょう!
令和2年7月の人吉球磨地区の豪雨による大災害でカスミザクラの自生地の植生状況を確認するために相良村の許可を受け、産業振興課長さん他3人が同行して調査に行きました。5月1日現在では、村道の一部が崩れて通行止めですから一般の人はまだ通行できませんが、貴重な文化財の状況確認とカスミザクラの自然分布調査が目的です。
今回の調査は、森林総合研究所 九州支所の勝木俊雄(農学博士)氏のカスミザクラ研究の資料づくりとして現地案内をしました。勝木先生は2年前にクマノザクラという桜の新樹種を紀伊伊半島などで発見された研究者で、この発見は国内で100年ぶりの快挙で全国紙でも紹介されました。勝木先生は桜の研究では日本でも第一人者と言われており、カスミザクラの南限地である相良村も併せて紹介していただき人吉球磨地区の発展に少しでも繋がればと考えています。
カスミザクラの標本木は樹勢が旺盛で、周囲の斜面は土砂流失がなく葉量も多く、周囲の杉・ヒノキの伐木のお陰で枝幅も伸び元気に成長しています。開花は例年より半月程度早く咲き花数も多かったそうですが、今は葉桜でした。
千原桜は熊本市立城西小学校に原木の子孫が残っており、約300年前に京都か江戸から持ち込まれた桜ではないかと推測される。ソメイヨシノより少し遅く開花し、一重八重咲の純白の花が1本の枝に着生する品種で、このような咲き方の桜は、墨染桜(菊池)・駒留の桜(菊池)・御車返し等があります。チハラ桜はオオシマ桜の系統品種(サトザクラ)で、花の芳香が強く漂うなど熊本では存在感のある桜です。大輪の白花が開きはじめると緑色の新芽も同時に伸びてそのコントラストが綺麗でより豪華さが目立ちます。樹形は円形で乱れることはなく、天狗巣病や瘤病には罹りにくい性質で、これからの桜品種として期待される桜の一つです。江戸時代の参勤交代の時に、関東から持ち込まれた可能性があります。
上記の桜はオオヤマザクラの巨樹(森林総研の丸山地区)で、戦時中この場所に護国神社の建設予定地でしたが中止になり基礎石などは残っているそうです。この桜は、それ以前に記念樹として植栽されていたのではとの言い伝えがあります。3月15日に撮影した時は花の終わり頃で、この桜は早咲きの系統と思われます。オオヤマザクラは白花で散形花序ですが、ベニバナ種はまだ蕾状態で開花は遅く、樹形も異なり変異株が多い。下記の写真がその系統です。
オオヤマザクラの紅花種で、自社の小国圃場に咲き誇っていたベニヤマザクラです。3月31日に撮影。
ソメイヨシノは天狗巣病に罹りやすいことですが、この陽春(品種名)は天狗巣病に罹りにくい品種として期待され、熊本市内の白川左岸の緑の区間に植栽されています。樹形はあまり横に張らず花数も多くて見栄えも優れ、樹勢が強健で生産しやすい品種です。
森林総研の鑑定で、御衣黄と鬱金はDNA鑑定では同体で枝変わりとされています。熊本市黒髪の宇留毛神社の境内で2本一緒に咲いています。3月31日ころが満開でしたが、撮影時は散り際で花弁に赤筋が出ていました。4月5日。
令和3年に「鵜の木八幡宮」のご神木(高さ30m・幹周4.5m)を移植しました。樹齢300年と云われるムクノキが菊池川の中州に植えられていて、洪水で流される恐れがありますので、地元の要望もあり2月中旬に移植しました。
主幹に大きな腐朽部がありますので、樹体に負荷のかかる普通の移植は危険です。素掘り工法・浅鉢仕様で対応しました。通常であれば総重量が60t~70tですが、移植場所が高台に指定されていますので、ご神木の総重量を20t以下に抑える工夫をして、65tクレーンと70tクレーンの2台で伴吊りしました。
仮設道路から植穴までの距離が15mあり、高低差が8mありますので大型クレーン2台を駆使して吊り上げて安全管理優先の植付けです。土壌改良材はバーク堆肥・ピート・パーライトなどを現場土と混合して排水の状態を確認しながらの植付け作業になりました。
植穴に植樹後は4本のワイヤー地下支柱を設置しました。4月初には小枝に新芽が伸び始めており、根系の発根も順調に生育しています。これからは夏の高温・強光・乾燥をいかにして乗り越えるかが大切で、特に5月の連休後、梅雨明け後、9月10月の乾燥時期を注意して水管理することで、萌芽枝が多く出て「ご神木」としての再生が期待できます。
巨樹の移植工事で最も重要なことは樹体温度が上昇して枯死しないように主幹や葉水への水掛が養生管理の大切な作業の一つです。移植工事は、移すスキルよりも移した後の樹体温度を上げさせない管理が移植工事の成否にかかっていると云っても過言ではありません。この地味な命の水掛けと見守りが「移植工事」の神髄ではないかと私は思います!!
樹種 ボダイジュ シナノキ科
形状 高さ20m 幹周5.5m 枝張り 15m
樹齢 約250年 倉岡氏が天明年間に伊勢神宮より持ち帰る。
場所 熊本県上益城郡山都町小峰 地内
総合診断
令和2年に台風余波により主幹中央部の腐朽部から墓地へ倒木し、墓石や樹林に当たり宙に浮いた状態できわめて危険で、伐採切断するにしても墓石を傷めずに撤去することは困難な作業でした。倒木している総重量は推定10t以上と思われますが大型重機車両を搬入するにしても山道で道路が狭く作業困難な場所です。切断(玉切場所により浮いた樹木が反転して墓石を傷めたり、作業員が怪我することも想像できますので、切断はワイヤーを張り支柱で支えるなどの工夫をして安全管理面でも慎重にしました。切り詰め剪定するときに、墓石に大枝が当たる可能性もあり墓石を壊さないように、一部を先に避難させました。結果、作業中に墓石を壊さず人身事故もなく安全に完了しました。
主幹の中央腐朽部から裂けていますが、大きな腐朽部からコフキタケ(腐朽菌)の子実体が10個以上発生しはじめているなど腐朽の進行が外観より内部が早く進行していたことが分かりました。残った主幹は、腐朽がひどくボロボロで原形を留めていないくらい、危険な立ち木です。主幹から徒長枝、萌芽枝も発生していますが北側からの吹上風が強く折木の可能性が高いと思われますので、根元から伐採することが安全と判断しました。最終的には根元の1.0mくらいの高さで切断し、切断面には防腐剤・殺菌剤などを塗布し、母株を保存するとともに根元周辺に群生しているヒコバエの生育を見守ることが重要と考えています。
菩提樹は生長が速い樹種の一つですが、腐朽菌に弱くコフキタケの発生が多く見られたのは、内部腐朽の進行が早く北風の吹上げが強いので倒木したと考えられます。
これからの管理養生としては、今回の作業で倒木の心配はなくなり安全管理については限りなく低下したと思います。問題はヒコバエの群生を間引きしながら5本~10本程度にまで間引きする管理を継続し、文化財としての価値を守ることです。これからの管理は特別な養生をすることはなく、関係者で見守ることが必要です。
水前寺公園に「三鈷の松」が何故誕生したのか、主な原因は不明です。それらの可能性としては、年2回の剪定(緑摘み・古葉もみあげ)の影響で新梢にストレスがおこり、部分的に『先祖帰り』で二葉が三葉に変態した可能性が高いと私は考えていますが、疑問も残ります。それに水前寺公園に植栽されている松類は、アイグロマツ・アカマツが多く、それらはクロマツと比べて樹勢が少し弱く形質や遺伝的に剪定などの影響を受け易い樹種です。さらに異常気象(乾燥・高温・強光)や熊本地震など、生育環境の悪影響も原因の一つかもしれません。それらが相乗的に作用して、新梢の下部に三葉が発生した可能性も考えられます。「先祖帰り」とは、厳しい環境下で樹体が対応する変化です。例えば、カイヅカイブキで強い剪定後に杉葉が出ます。イチョウは火事・衰退などで葉がラッパ状に一部がなり、樹齢・環境と共に葉は変身することも報告されています。松の新梢にストレスが貯まり、二葉の一部が三葉に変化したと考えるのが自然かもしれません。三葉の出る松類は、テーダーマツ・ダイオウマツ・ハクショウ等がありますが葉身が長く外国原産の別種です。
いつごろから水前寺公園に「三鈷の松」が誕生したのかは謎ですが、これこそ「神のみぞ知る」ですね。弘法大師と縁のある「三鈷の松」が熊本にも存在していることは大変うれしい事です。この三葉を持つことで運気が上がり幸運が訪れると云われています。熊本の新しいパワースポットの誕生で、新型コロナ退散を念じて!