調査・研究について

1.一心行の大桜の謎を解く

TREE-DOCTOR 13号 日本樹木医会誌 2006年 投稿

ヤマザクラかエドヒガンかの樹種論争があった。花が葉より先に咲くのはエドヒガンで花が葉より後に咲くのがヤマザクラとするのが一般的な分類の一つです。葉は比較的円型大形で鋸歯に繊毛があり、葉裏は緑色です。ヤマザクラは裏白で異なります。周辺に自生しているヤマザクラとは形状と開花時期が異なり、何かの目的で持ち込まれた(移植)サクラと思われます。峯伯耆守惟冬(1586年没)の長男・惟尚が京都へのぼり真宗西派の釈門に帰依して了順と名乗り、1635年に帰郷し、徳正寺を開基したと伝承されています。謎を解くキーワードは「オオシマザクラ」です。まだまだ研究の余地を残していますが、吉野山(奈良)のヤマザクラ苗を買った可能性もあります。話題性の高いサクラ樹です。

2009年2009年
2007年 樹勢回復中2007年 樹勢回復中
2004年台風被害 熊本日日新聞2004年台風被害 熊本日日新聞

2.根回し工法の施工例(101本)

TREE-DOCTOR 17号 日本樹木医会誌 2010年 投稿

熊本市内の白川河畔に自生している樹木を根回しして、白川左岸(緑の区間)へ移植する工事報告書です。2004年~2008年の根回し施工した根系状態を調査しました。

クスノキクスノキ
ケヤキケヤキ
イヌマキイヌマキ

3.大径木の根鉢軽量化について

TREE-DOCTOR 18号 日本樹木医会誌 2011年 投稿

根回し工法の応用編で、根鉢を軽量化することでのメリットを考案しました。移植後の活着率も高く植え傷みが少ない工法です。

根回し根回し
根鉢掘削根鉢掘削
土壌軽量材の混入土壌軽量材の混入
シートを付けたまま荷造りシートを付けたまま荷造り
樹体への負担も少ない樹体への負担も少ない
シート剥がした根鉢状態シート剥がした根鉢状態

イチョウ(幹周1.45m)の根鉢重量は約8.0tであるが根鉢軽量化することで、5.5tまでに下げることができた。

4.カタルパさんの親子DNA鑑定について

TREE-DOCTOR 21号 日本樹木医会誌 2014年(共著・門奈理佐氏)投稿

熊本市立菱形小学校のカタルパ(アメリカキササゲ)の調査からはじめた。新島襄が明治13年11月27日に熊本市内で宿泊した際に、徳富蘇峰・一敬にカタルパ種子を譲渡した。この後、実生や挿し木で増やされて多くの学校でシンボルツリーとして大切され、カタルパ2世は熊本市保存樹木に指定されている。

菱形小学校・日本一の巨樹菱形小学校・日本一の巨樹
徳富記念館の開花徳富記念館の開花
昭和4年撮影(大江)昭和4年撮影(大江)

5.熊本(球磨)で発見されたカスミザクラの考察

TREE-DOCTOR  22号 日本樹木医会誌 2015年 投稿

熊本県球磨郡相良村で遅咲きのヤマザクラがあるので、これを樹種鑑定してカスミザクラと判明した。さらに、日本に於ける南限地として貴重な文化財である。2015年5月に大場秀章先生に自生地を確認していただいき、自生地の新発見になった。

墨染桜の開花状態カスミザクラの開花 4月18日
カスミザクラの開花 4月18日
左カスミザクラ (葉裏に光沢がある)・右ヤマザクラ左カスミザクラ (葉裏に光沢がある)・右ヤマザクラ

6.墨染桜(菊池)の考察

第33回 全国サクラシンポジウム イン 菊池

熊本県菊池市に植えられている。九州で最古のサトザクラと思われ、一重二重咲き大輪で香りのする園芸的価値の高い品種である。開花時期は4月初旬で、1367年に寂照さんが詠んだ「袖ふれし 花も昔を忘れずば 我が墨染めを あわれとはみよ」という歌が残されています。大智禅師が1330年代に京都近辺から持ち帰った可能性や寂照のお母さん(公家の出)が京都から嫁入り記念で植樹したとも考えられる。

墨染桜の開花状態墨染桜の開花状態
大輪の花大輪の花

※ 駒留め桜(菊池市広瀬) 江戸時代に植えられたと思われる。

7.タニワタリ(アカネ科)の保護育成について

天草市河浦の路木川に自生している希少種タニワタリの調査をした。ウドカヅラも一緒に調査し、挿木して育成した。タニワタリは常緑小高木で、水辺に自生しており日本では長崎市周辺が北限とされている。繁殖は挿木で比較的簡単に増やせる。人工衛星みたいな花型で、天草では6月下旬から7月上旬に開花する。

8.ツツジ類に関する研究 (東京農業大学 卒業論文)

久留米ツツジ(キリシマツツジ)・サツキ・ヒラドツツジ。ケラマツツジなどの常緑ツツジの自然分布について。ミツバツツジ・コバノミツバツツジ・トウゴクミツバツツジ・サイコクミツバツツジ・オンツツジ・ゴヨウツツジなどの落葉ツツジの自然分布についてと、それらの植栽分布についても研究をしました。

クルメツツジの品種 麒麟(ピンクの二重咲き)クルメツツジの品種 麒麟(ピンクの二重咲き)
常夏(絞りの一重咲き)常夏(絞りの一重咲き)
胡蝶の舞(紫の二重咲き)胡蝶の舞(紫の二重咲き)

9カタルパさんの.親子DNA鑑定について(その2)

新宿御苑のカタルパをDNA鑑定することで、日本に於けるカタルパ植栽分布と由来さらに血縁関係を通して検証した。TREE-DOCTOR 21号では徳富記念園のカタルパを中心にして調査しましたが、今回は明治時代のカタルパについて調査して、津田仙(1837~1908)がカタルパ分布に大きな影響を与えていた一人ということが分かりました。通信販売の元祖が、まさかカタルパを1本5銭~10銭で販売していたとは驚きでした。さらに新島襄との関係も親密で津田仙と中村正直(東京大学)はキリスト教の三傑と呼ばれておりました。仙の次女は津田塾大学の創始者で有名です。菱形小学校のカタルパは幹周3.53mで巨樹データーベースに登録です。

新宿御苑のカタルパ新宿御苑のカタルパ
徳富記念園2世徳富記念園2世
三本木高校(青森県)三本木高校(青森県)

10.豊後街道杉並木の保存について

豊後街道杉並木は「屋久杉伝説」があり加藤清正公(1616年没)が熊本城の修復をするために屋久島へ行き、そこの杉苗を持ち帰り植えたとされています。しかしながら、分類的には豊後街道杉並木は屋久杉(スギ Cryptomeria japonica)ではなく北山杉(Cryptomeria japonica var.radicans)が植えられており、DNA鑑定による客観的な証左でも屋久杉とは血縁なしという結果でした。したがって杉並木の枯れ捕植は屋久杉ではなく菊陽太郎(後継樹)の挿木苗(クローン)を植えるべきだと考えています。この杉は、国指定天然記念物だった手野の大杉(京都からの持込と考えます)と先祖が同一というDNA鑑定の結果もでました。日光街道杉並木も北山杉系統ですから、植栽した目的を考慮すれば理解できると思われます。

菊陽太郎の後継樹菊陽太郎の後継樹
大津菊陽杉並木(菊陽町)大津菊陽杉並木(菊陽町)