千原桜(チハラザクラ)の「根返り倒木」を防ごう!

樹木治療研究会  樹木医 今村順次

令和4年4月27日の朝に、熊本市中央区渡鹿の産業道路に植栽されていたチハラザクラ(樹齢40年・樹高15m・幹周170㎝)が強風と豪雨(100mm)の影響で根返り倒木しました。チハラザクラはオオシマザクラ系統の園芸的価値の高い品種でサトザクラに含まれます。樹勢が強く葉は大きく繁りますので風圧を受けやすく、主幹が強いので緑樹帯では根返り倒木する桜です。花は白花で一重・八重咲で豪華な桜で、ソメイヨシノの開花後に咲き始め熊本の地域(ローカル)桜として有名です。

 根返り倒木した桜の植樹帯の面積は、長さ5.0m幅1.0m程度で、根系の生育限界を超えて盛り上がっています。主な倒木原因として、歩道側に汚水管などの埋設物、電柱、バス停が設置され、桜の支持根を切断した可能性があり根返り倒木した素因の一つです。さらに切断面から腐朽菌が侵入して根系を腐らせる子実体(きのこ)が発生していますので支持力が低下しています。ベッコウタケは幹に発生する場合が多いのですが、今回は幹ではなく、切断された根系等に発生しています。桜類は浅根性ですから根元周辺の根系切断後は樹勢が衰弱し、風圧に対する抵抗力が弱体して根返りの可能性が高くなるのです。
 伐採された倒木の切断面には腐朽部(空洞)がありませんでしたが(写真2)、根株やヒラドツツジ根系にベッコウタケ・マンネンタケ(写真4.5.6)が発生しています。桜は陽樹ですから車道側の日向や空間に伸びる樹形になり、全体の重心が道路側に傾いており根返りとしては自然な方向に倒れたと思います。

1.舗装  根は傷められなかったか?

1.舗装 根は傷められなかったか?

2.主幹の切断面 直径60㎝・腐朽部なし

2.主幹の切断面 直径60㎝・腐朽部なし



3.車道への傾き

3.車道への傾き

4.ベッコウタケの子実体(きのこ)

4.ベッコウタケの子実体(きのこ)



5.マンネンタケ(緑樹帯での発生は珍しい)

5.マンネンタケ(緑樹帯での発生は珍しい)

6.ベッコウタケ(3年前から発生)

6.ベッコウタケ(3年前から発生)


 5月12日夜に、熊本市中央区土木センターは診断(打音と空洞部の有無)の結果だけで、2本の伐採を追加しました。危険木(空洞部)であれば伐採は当然ですが、伐採された主幹には空洞(腐朽部)がありませんので切りつめ剪定で安全性を確保できたかもしれません。診断方法や対策が間違っていたと私は考えています。危険木かどうかの診断が適正かどうかは第3者を交えて専門家で検証し、守るべき桜樹は守り大切に保存したいものです。産業道路沿いのチハラザクラ街路樹が開花すれば日本一の最も豪華な桜並木と自慢できるので、なるべく伐採しない管理をお願いします。遠慮なく桜の専門家に相談してください。

伐採-1 5/12伐採

伐採-1 5/12伐採

伐採-2 5/12伐採

伐採-2 5/12伐採


空洞部

空洞部

腐朽菌の幼菌

腐朽菌の幼菌

枝枯れ(千原桜)

枝枯れ(千原桜)



管理案
 ヒラドツツジの根元に発生しているベッコウタケ・コフキタケ・マンネンタケなどの腐朽菌(子実体)を除去し、腐朽菌の温床(写真5.6)にならないように清掃します。したがって桜の根元周辺のヒラドツツジは移植か伐採して撤去し、同時に腐朽菌の発生元(未分解物)も搬出します。チハラザクラ等で道路側にはみ出している枝葉(写真3)は切り詰め剪定し、歩道側を含めた全体のバランスを見て剪定をします。桜の根元周辺を掘削することは断根になり倒木を招く要因にもなりますので極力禁止です。今回のチハラザクラの倒木は腐朽部(空洞)からの幹折れではなく、根返りと思われますので枝抜きと切り詰め剪定を併用して風当りを減少させる管理も必要です。剪定後の切断面の養生や枯れ枝剪定などの定期管理は安全管理上でも重要です。大きな枯れ枝が残っっていますので車・人に落下して重大事故が発生する可能性もあります。幹や枝に腐朽菌の幼菌が着生していますので、剥離して殺菌剤・人工樹皮をして塗布し防除します。産業道路にはチハラザクラだけではなく、ソメイヨシノ、ヤエザクラも混合植栽されていますので、チハラザクラに統一していただければ景観面でも優れた道路になると思います。

※ 倒木には、大きく分けて幹折れ(空洞・腐朽部)と根返りがあります。今回の倒木は根返り倒木の可能性が高いと考えられます。チハラザクラは樹勢が旺盛で主幹が健康です。葉量が多く風当りが強くなり根系への回転圧力(モーメント)が大きくなり根返りしたと考えられます。