「一心行の大桜」の衰退原因と治療

Ⅰ.樹種・ツクシヤマザクラ

一心行の大桜は長い間、ヤマザクラとされていた。しかし、周辺のヤマザクラと開花時期が異なり、花が葉より先に出て開花し花数が多い、葉裏は薄い緑色、幹肌は縦列(エドヒガン系)で、葉形は楕円形、葉縁は重鋸歯が先細く延び、花に芳香(クマリン)などの形質はオオシマザクラにも近いなどから、大桜はヤマザクラではないと考えられる。しかも樹齢400年と推定されその間、テングス病・コブ病などにも罹らず強い性質があることも証明されている。2013年に勝木先生達は、核DNAのSSR分析の結果、九州南部に自生しているヤマザクラの変種でツクシヤマザクラのグループに区分できるとしている。母樹は宇城市矢裂から移植した可能性が高く自生地の範囲でもある。

Ⅱ.衰退の経緯

①火山灰(写真)
1928年~1929年に阿蘇山の大噴火による降灰ヒコバエ発生・5本の株立になる。
②台風
2004年8月と9月の強烈な台風により幹折れ多くの枝が折れて、花が咲いた。
③埋立と盛土
2005年にウッドデッキ設置による段差解消のため約1.8mを埋立(盛土)した。
④熊本地震
2016年4月に震度7の地震が発生した。根系の切断・ヒコバエの傾きがあり衰弱を加速した。
⑤腐朽部の通水障害
枝枯れが発生しやすくなり、樹勢衰退化が目立つ。コフキタケなどの腐朽菌の発生。コスカシバの加害。
⑥高温・乾燥・強光
地球温暖化(沸騰化)の影響が大きく、樹体温度の上昇による樹勢の衰退化がある。枝枯れ、早期落葉、蘚苔類の付着がある。

Ⅲ.土壌調査

盛土した一部を掘り戻し根系調査した結果、大桜の根系は下方(底)で腐れておりサカキ・ヒサカキの根系が表土盛土に生育していた。この原因は、2005年に南側の段差解消のために埋立した結果、植栽基盤が悪化したと考えられる。これは空気・水分の流通が困難な土壌状態になり、密閉化して腐植したと考える。土壌分析では異常はなかったので、盛土の物理的な関与(重量・密閉・腐敗など)があったと考えています。

Ⅳ.治療期間

2003年

2003年

2021年

2021年

大桜は5本のヒコバエが生長した株立です。それぞれの幹に立場・生育環境が異なりますので、植栽基盤に合わせた再生管理が求められます。土壌改良の重要な部分は2003年の下段を復元させて根系環境(空気・水分・温度など)を戻すことから周辺環境整備を少しずつ始めます。これは全てが従来のように段差修復するのではなく、大桜の樹勢を確かめながら、毎年少しずつの復元養生をして30年後に回復すれば成功だと考えています。ヒコバエ主幹の1本1本にそれぞれ異なる養生をしなければなりません。

Ⅴ.復元の順序と養生管理

大桜の根元には、樹高3.0m~4.0mのサカキ・ヒサカキが8本植栽されています。これらの樹木は移植か伐採・抜根して大桜との根系競合を止めます。段差の解消は徐々にすべきですが、特に注意すべきことは埋立土を搬出した後に元土や大桜根系を乾燥させないことです。
大桜が埋立(盛土)されて失った物は大きく、枝枯れ・樹勢衰退により美観が損われます。盛土されて通気不良になり空気(酸素など)、水分、微生物などの生態系、さらに冬場の暖房(石垣)なども失っています。
土壌改良は通気性を高め、乾燥させないように潅水し、緩効性肥料(骨紛入り)を施肥し、根量を増加させます。枯れ枝は随時剪定します。腐朽菌類は切除して防腐剤等をその都度塗布します。夏場の暑い日は主幹に散水して樹体温度を下げることが樹勢回復に繋がる作業です。

Ⅵ.謝辞

この論文は、樹木医学研究 第27巻3号 (2023年7月) 別刷で発表しました。この投稿は森林総研の勝木俊雄博士のご指導や南阿蘇村役場、峯家などのご協力で書き上げることが出来ましたことを感謝いたします。

以上